会社、対人関係の悩み

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難しい対人関係、過酷な職場環境

対人関係で悩む人がとても多いと言えます。

仕事が続かなくなる要因としても、仕事自体の問題よりも、むしろ対人関係の問題が大きいケースが多いのです。

うつになる人や新型うつ病と呼ばれる適応障害のケースが急増していますが、過酷さを増す職場環境において、いかに心身の健康を守っていくかは、人生を左右する問題です。

院長・岡田尊司の著書『働く人のための精神医学』(PHP新書より近刊)より、この問題を少し考えてみましょう。
 
職場の対人関係の問題には、パーソナリティ障害や発達障害も、しばしばからんでいます。

「大人の発達障害」や「性格の悩み」の項目も、是非参考にしてみてください。

岡田尊司『働く人のための精神医学』より

あの人が、うつに?

サラリーマンがうつになるという場合も、二つのタイプがある。

一つは、もともとストレスに対してあまり強くなく、社会的スキルや順応力に弱い点を抱えている人が、次第に責任や負担が増える中で、対処しきれなくなり、うつや不安障害、心身症になってしまうというケースである。
 
 だが、もう一つタイプがある。

それは、人並み以上に適応力や体力にも恵まれ、精神的にも肉体的にもタフとみられていた人が、うつになってしまうという場合である。

周囲は、まさかあの人がと、予期していなかったということが多い。

だが、誰よりも予期していなかったのは、本人である。

自分がまさか、うつになろうとは夢にも思っていなかったのである。

 それだけに、思うように体も頭も動かないという状況に直面しても、自分に何が起きているのかさえ、わからないということが多い。

それゆえ、とことん症状が強くなって、ようやく周囲が異変に気づくまで、じっと我慢して、どうもないふりをしているということにもなりがちだ。

その分、周囲が気づかないうちに追い詰められやすい。

 インフルエンザやウイルス性肝炎なども、免疫が強く、抵抗力のある人の方が、症状が激しく劇症化することがある。

同じように、うつの場合も、抵抗力がしっかりしている人の方が、症状が激しく、自殺にまで突き進んでしまうという場合がある。

元々行動力があるだけに、自殺しようとする行動も徹底していることが少なくない。

責任感や仕事に対するプライドも強いだけに、自分の務めを果たせないことに対して、自分を責める気持ちも強い。

 二十代など、比較的早い段階で問題が出てくるケースは、前者のタイプが多いと言えるだろう。

しかし、三十代、四十代、あるいはそれ以降に問題が出てくるというケースでは、後者のタイプの方が多くなっていく。

うつや心身症になる場合、いつくかの典型的なパターンがあり、それぞれに対して、施すべき対策も異なってくる。

容量オーバー型

容量オーバー型のうつや適応障害は、その人にかかるストレスや負担が、対処できる容量を超過することによって起きる。

対処できる容量は、疲労や睡眠不足が蓄積すると、ますます小さくなる。

そのため、ある限界点を超えると、急速に容量オーバーが進み、自然に均衡を取り戻すことは期待しがたい。

できるだけ早く休息をとったり、ストレスから解放されない限り、適応障害やうつ、心身症の状態に陥っていくことになる。
 
 過労によるうつという場合に、ほとんどのケースに見られるものである。

一方で、睡眠や休息が不足し、他方で、その人にかかる負荷が過剰な状態が続いている。

多くのケースで、就労時間自体が長い状態が、ずっと続いている。

本来休みである土曜や日曜日も休みが取れないという状況も多い。

さらに、こなしきれないほどの仕事を抱えている上に、さらに期限付きの仕事を押し付けられるという状況が何度も加わって、ついに潰れてしまうというのが典型的だ。
 
 一、二週間であれば、ストレスホルモンが放出されることによって、脳や体の活動性を高め、負荷が増大した状態を乗り越えることができる。

しかし、さらに長期間同じ状況が続くと、ストレスホルモンが今度は、脳の神経細胞を障害する方向に働き始める。

神経細胞は萎縮したり、死滅したりし始める。

 また、神経伝達物質の枯渇も起きてくる。

いくら鞭打っても、伝達物質自体が尽きてしまっては、脳も体も思うように動かなくなってしまう。

 通常は、過労と睡眠・休息不足という両面からの負荷が増大することによって、容量オーバーは、さらに強まることになる。

疲労によって脳の処理能力が低下すると、ますます容量オーバーは深刻になり、泥沼に陥る。

だが、この泥沼から抜け出すどうしたらいいのかさえ、判断がつかくなくなってしまう。
 
 容量オーバーが起きてくると、段々と疲労が蓄積し始める。

疲れが残る、朝がつらい、以前ほど仕事に対して新鮮な意欲や興味が持てないといった状態は、容量オーバーが起きている徴候である。

集中力や能率が低下する、判断力が鈍くなる、人と顔を合わすのが面倒になる、電話が億劫になる、しなければいけないとわかっていることを、つい後回しにしてしまうといったことも、重要なサインだ。

 そうした場合には、無理に仕事を続けるよりも、思い切って早めに仕事を切り上げたり、休みを取ってリフレッシュした方が、擦り切れてしまうのを防ぐことにつながる。

 容量オーバー型のうつを予防する上で、一つ大事なことは、情報入力を少しでも減らす努力をすることである。

脳が容量オーバーを起こしている上に、遅くまでテレビやネットをしてしまっては、ますます情報負荷が過剰になって、容量オーバーを悪化させてしまう。

ネット依存の人にうつが起きやすいのも、その要因の一つとして容量オーバーに拍車がかかるためと考えられる。

 疲労気味なときには、音楽、映像などの情報入力を減らして、脳を休めるように努める。

五分くらいの合間の時間でも、目を閉じて神経を休めるだけでも、ずっと活動し続けるのに比べると、容量オーバーを防ぐのにとても有効である。

休憩をまめにとって、ぶっ続けで仕事をしない。

そうしたことに気を付けるだけでも、かなり違うものだ。

 容量オーバーが起きやすいシチュエーションの一つは、環境や負担が変わったときである。

 新たな環境に入ったり移ったりしたときというのは、対人関係の面でも、やるべきことの面でも、勝手がわからず、何もしていなくても気遣いが増え、慣れた環境で過ごす場合に比べて、何倍も疲労するということも起こりうる。

ましてや責任ある立場になったり、不慣れなことを担当したりする場合には、ペースをつかむまで、容量オーバーが起きやすい。

 容量オーバーが起きやすいもう一つのシチュエーションは、逆に環境や仕事内容にも慣れて、仕事をそれなりにこなせるようになったときである。

中堅として、仕事内容が質・量ともに、急激に増え、周囲からも頼りにされるということが起きる。

仕事というのは、仕事ができる人に集中しやすいという性質をもつ。

誰だって、仕事を頼むのに、質の悪い仕事しかできなかったり、期限を守ってくれなかったりする人には頼みたくない。

仕事をきちっとこなせるかどうかを周囲はよく見ている。

この人、できそうだ、使えそうだという印象や評判はすぐに広がっていく。

まずは、できる人に仕事は持ち込まれる。

その人が手一杯ということになって初めて、次に使えそうな人に回っていく。

 相手の期待にできるだけ応えようとすると、その人のところに仕事が集中することになるのは必定だ。

あまり仕事をしていない人がいても、仕事ができない人のところには、なかなか仕事は回っていかない。

そういう人に回しても、回した側も負担をかぶることになりかねないからだ。

一方、仕事ができる人は、大抵責任感や人への気遣いも強い。

多少無理をしてでも、頼まれた仕事を受けてしまう。

こうして、できる人ほど潰れやすいという悪循環が生まれる。

 容量オーバー型の適応障害を避けるためには、自分にかかっている負荷の容量が適正なものか、常に監視しておく必要がある。

そのためには、厳格なスケジュール管理、自己管理を行い、どんぶり勘定で、何とかなるだろうと仕事を受けてしまわないことである。

ほんの少し無理が重なっていくことで、結局、うつに追い込まれていくことになる。

うつになって、脳の委縮まで起き、回復に何年もかかる状態になったところで、誰も面倒を見てくれるわけではない。

下手をしたら、こちらが自殺に追い込まれ、家族は生活に困るだけでなく、永久に消えない心の傷と悲惨な思いを味わうことになる。

 それを防げるかどうかの分れ目が、無理をしてまで仕事を受けないということである。

無理をして仕事を受けていると、必ず仕事の質が低下してしまう。

すると、結局、あなた自身の評価も、中長期的には下がってしまう。

ときには、それが致命的な失敗につながることもある。

自分が質を落とさずにこなすことができる仕事の量を、きちっと管理し、それ以上は逆立ちしてもできない、うつになるか過労死してしまうと、はっきり断る習慣をつけることだ。

 容量オーバーになりやすい、もう一つの典型的なパターンは、部下が使いこなせない、あるいは、部下が使い物にならないという場合に起きる。

管理職とは名ばかりの主任や係長といった責任を担わされたものの、部下はいい加減だったり、意欲や技術もなかったりして、結局、部下にやってもらうはずの仕事まで、あなたが全部面倒を見なければならないという場合だ。

任せたくても、任せられない。

任せたはずが、期限が近づいているのに、まったく進んでいない。

しかも、そのことを報告もしない。

そういう状況に立ち至って、あなたは自分の仕事で手いっぱいな上に、部下の仕事を徹夜でやらなければならないという事態に至ることもあるだろう。

 明らかに使い物にならない部下というのもいるが、多くの場合は、使い方が問題になる。

ありがちな悪いパターンとしては二つある、一つは、部下に任せることができず、手だし口出しをし過ぎて、部下のやる気や責任感を削いでしまうという場合である。

これは、部下が仕事を辞めたり、うつになったりする原因としても、多いものであり、後の項目で詳述したい。

 もう一つは、部下に対する指導や管理が弱すぎるという場合である。

部下は、上司の背中を見て動いてくれるものと期待し、あまりうるさいことを言わないで、自主性にまかせているつもりが、結局、部下は、何をしていいかもわからず、見当違いなことをしたり、何も言われないのをいいことに手抜きをして、仕事になっていない。

後で尻拭いをするのは、あなただ。

パワハラといった上司側の問題ばかりがクローズアップされがちだが、実際には、問題のある部下を抱えたために、上司の側がうつや心身症になるというケースが最近、増えている。

この問題も非常に重要なので、後の項目で別に取り上げたい。

主体性侵害型

適応障害やうつが起きる状況には、もう一つのタイプがある。

それは、その人がその人らしく生きることを妨害された場合だ。

その人の主体性を侵害され、自己の尊厳が脅かされたり、その人が大切にしているものを侵害される状況に置かれたとき、人は元気ではいられなくなる。

 そうした状況に遭遇した時に、人に起きる自然な反応は、反発であり怒りである。

「それは、おかいしい」「そんなことをしたくない」と叫びだしたいところだろう。

しかし、さまざまな事情で、仕事を失うわけにはいかないと思い、また、相手を怒らせるのも面倒だと思い、腹の中では怒りが込み上げていても、顔でへらへら笑って、相手の言い分に合わせるというのが大人の対応である。

ぐっとこらえ、自分を殺して、生活のため、波風を立てないために我慢する。

 しかし、大抵のことには耐えられても、自分が一番大切にしていることやプライドをもっていることを踏みにじられるような思いを、何か月も何年にもわたって味わい続けていると、その人の心は次第に活力を失っていく。

積極的な意欲や関心をなくし、その場だけ時間が過ぎていけば、それでいいと思うようになる。

よりよい仕事をしようとか、高めていこうという気持ちもなくしてしまう。

仕事が面白いだけでなく、会社の人間関係も、人生そのそものもつまらなくなり、ただ耐えるためのものになってしまう。

 こうしたことは、実験的にも確かめられている。

一つのグループには、厳しく手順を決めて、指示されたことしかできないという状況で仕事をやらせ、もう一つのグループには、自分の裁量で仕事ができる状況で働いてもらった。

その結果、前者の制限の強いグループでは、後者の自由度の高いグループに比べて、同じ時間働いても、ストレスが大きく、過労の症状や心身症の症状を示しやすかったのである。

 ましてや自分の大切な信条や自分が大切にしているプライドを毀損されるような状況を、味わい続けることは、強いストレスになるだけでなく、それに耐え続けることは、その人を病ませることになってしまう。

 主体性侵害型の適応障害やうつ、心身症を避けるためには、管理する側と本人の側のそれぞれに気をつけなければならない点がある。

管理する側としては、本人の主体性やプライド、ペースといったものを、できるだけ侵害しない配慮を行い、必ず守るべき手順の部分と、本人の裁量で調節できる部分を明確にし、守るべき手順の部分を最小限にすることである。

機械操作するということであれば、分厚いマニュアルで手順をすべて決めるということが必要だろうが、人間を同じように扱おうとすると、必ず主体性侵害型の適応障害、さらにはうつや心身症を起こしてしまう。

 これだけは守ってほしいという点を、しっかりと伝えた上で、後は、本人の自主性を尊重し、良い点や努力している点を褒めるという戦略を基本にする。

その上で、肝心な点が守られていない場合ややるべきことが果たせていない場合には、個別に呼んで注意を与えるが、みんなの前で恥をかかせたり、感情的に怒鳴ったりすることは絶対にしない。

注意するときも丁寧だが、通常より少しトーンの低い声で、この点はやってほしいと伝えたと思うと確認を求める。

それと同時に、相手に対するポジティブな評価や期待の面も伝える。

振りまわされ型

主体性侵害型は、上司よりも部下、上の者よりも下の立場の者に起きやすい問題だが、逆に、最近は、扱いにくい部下によって、上司の方が強いストレスを感じ、適応障害やうつになるというケースが目立っている。

こうしたタイプを振り回され型と呼ぶ。

この場合は、上司の方が部下をコントロールしきれずに、部下の言葉や行動に、文字通り振り回されてしまう。

 振り回され型にもいくつかの典型的なタイプがある。

一つは、反抗的で挑戦的なタイプの部下の場合である。

もう一つは、逆に過度に依存してきて、距離が取れなくなり、公私の区別がつきにくいようなタイプの部下の場合である。

反抗的で挑戦的なタイプの部下の場合、プライドが高く、上司に対しても張り合おうとする点が、一つの特徴である。

不当な扱いを受けたというように、被害的に受けとめたりする傾向も強く、些細なやり取りから関係がこじれてしまうと、後で大変厄介なことになる。

下手をすると、パワハラや不当行為を受けたと、思いもかけない申し立てや訴訟を受けかねない。

 まず、絶対やってはいけないのは、こちらは上司だからと、力づく、権柄づくで従わせようとすることである。

それをする場合は、いざとなったら関係を切る覚悟でやる必要がある。

その場合は、一切難癖をつけられないように、それなりの手回しと準備をしてから、相手に服従を迫る必要がある。

したがって、関係を継続し、むしろ良い部下に育てていこうとした場合、こうしたやり方は禁忌だと言える。

通常望ましいやり方は、むしろ一目置いた態度を取って、本人の意見や考えをよく聞く態度を見せた方が良い。

本人ならどうやるか、問いを投げかけてみるのもよい。

ただ、こちらの判断まで左右されないようにすることも大事だ。

だが、一理ある点は積極的に評価し、また、本人に任せてやらせてみるということも一法だ。

一旦任せたら、あまり細々したことには口出しし過ぎず、大きな目で見守る。

このタイプの部下は、ある部分では、とても仕事ができ、使える人材であることも多い。

うまく使いこなせば、優れた右腕ともなり得る人材である。

 このタイプとぶつかってしまいやすいのは、管理し過ぎるタイプや、秩序や上下関係を重んじ、部下から尊敬されたいという気持ちが強い人である。

管理し過ぎる傾向が強い人の場合は、余計鬱陶しがられることになり、こちらも素直に従ってくれないことに対する苛立ちが強まりやすい。

自分のことを上司として認めてほしいという気持ちが強い人も、反抗的な態度に戸惑い、振り回されやすい。

「なかなか元気がいいな」と、その人の反抗的な部分も長所として、評価するくらいの度量が必要になってくる。

 逆に過度に依存してくるタイプの部下の場合、熱い尊敬と信頼をもってくれる一方で、私生活の相談を持ちかけてきたり、恋愛感情や過度な理想化を向けてきたりすることによって、次第に相手のペースに巻き込まれてしまうということになりやすい。

急激に距離を詰めてくるタイプの人や過大な尊敬を向けてくるようなタイプの人の場合には要注意である。

 仕事のことよりも、私生活の問題が中心になってしまい、その対応に振り回されるということになりやすい。

期待はずれなことが起きて、相手が幻滅を覚えると、手のひらを返したように攻撃的になったり、批判的になったりすることもある。

いつのまにか、あなたが、大変な悪人にされてしまうということも起こりうる。

悪口や中傷を流されて、後で仕事がやりにくくなったり、他の人間関係にまで影響がでるということも珍しくない。

 振り回され型のトラブルやストレスを被らないためには、距離が接近し過ぎないように、用心することが大切だ。

個人的な相談を持ち込んでくるようなケースでは、要注意である。

こうした場合には、「専門家ではないから」「個人的な問題までは、わからないから」と、少し距離をとっておいた方が無難である。

「いつでも相談に乗ってあげるよ」とか「僕(私)でよかったら、話を聞かせてもらうよ」と無防備に相談に乗り過ぎると、後で大変な思いをすることになる。

   

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この記事を書いた人

香川県出身。東京大学哲学科中退。京都大学医学部卒業。2013年岡田クリニック開院。山形大学客員教授として、研究者や教員の社会的スキルの向上やメンタルヘルスにも取り組む。

著書に、『アスペルガー症候群』『ストレスと適応障害』『境界性パーソナリティ障害』(幻冬舎新書)『パーソナリティ障害』『働く人のための精神医学』(PHP研究所)『愛着障害』(光文社新書)『母という病』(ポプラ社)など多数。

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