パーソナリティ障害は3つのグループと10のタイプに分けられる
孤立的で打ち解けないA群、魅力的だが、振り回されやすいB群、他人本位で不安が強いC群にわかれる。
パーソナリティ障害は、さまざまなタイプがありますが、大きく三つのグループに分けることができます。
A群は、孤立的で、信頼関係や親密な関わりを持ちにくいグループで、シゾイド、失調型、妄想性の三つのタイプがあります。
B群は、関係を始めるのは容易ですが、変動が激しく、振り回されやすいタイプで、ドラマチック・タイプとも呼ばれます。
境界性、自己愛性、演技性、反社会性の四タイプがあります。
華やかで、格好良く、人を惹き付ける魅力を備えているのですが、親しくなるにつれて、変動の激しさや自己本位な行動に、戸惑うこともしばしばです。
C群は、不安が強いものの、一見すると、パーソナリティ障害とは思えない、常識的なタイプで、依存性、回避性、強迫性の三つのタイプがあります。
A群は、遺伝的背景としては、統合失調症と近縁性があり、C群は、不安障害などの神経症と近縁性があります。
境界性パーソナリティ障害(1)
なぜ、自分を傷つけてしまうのか?
強い自己否定感のために、「自分は生きる価値がない」と思ってしまう。
救いや希望にすがりつこうとして、裏切られるということを繰り返しやすい。
境界性パーソナリティ障害は、強い自己否定感とともに、気分や対人関係の両極端な変動を特徴とするタイプで、リストカットやオーバードーズといった自傷行為や自殺企図が、繰り返されるのも特徴です。
若い女性に多く、近年急増しています。
過食や薬物依存、過呼吸発作や、意識が一時的に飛ぶ解離性症状、一過性の幻覚などが見られ、そのため精神病と間違われることもあります。
見捨てられることに対して過敏で、そうした思いを抱いただけで、見捨てられまいと激しい行動化に走ったり、どうせ見捨てられるのなら、死んだ方がましだと、自暴自棄な行動に走るのです。
見捨てられたくないという救いを求める気持ちと、どうせ見捨てられるという悲観的な思い込みが、心の中を行きつ戻りつしています。
その根底には、「自分は無価値な存在なので、いつか見捨てられる」という間違った信念があります。
それは、幼い頃からの体験で、身につけたしまったものなのです。
境界性パーソナリティ障害(2)
なぜ、急増するのか?
急増の背景には、核家族化や働く母親の増加によって、幼い頃の愛情不足が起きやすくなっていることが原因として考えられています。
境界性パーソナリティ障害の原因は、一つには、気分が変動しやすい遺伝要因が関係しています。
環境要因としては、幼い頃の養育が重要と考えられています。
母子分離が行われる二~三歳の時期に、見捨てられ体験や愛情を奪われる体験を味わうと、基本的な安心感が損なわれると同時に、見捨てられ不安を心に刻みこんでしまうと考えられます。
ただ、それ以降の時期においても、本人の安全感を根底から破壊してしまうような心的外傷体験も、原因となり得ます。
その代表的なものは、性的虐待やレイプ被害です。
境界性パーソナリティ障害は、アメリカでは、一九六〇年代以降、日本では八〇年代以降急増しています。
その原因としては、小家族化や女性の職場進出によって、母親の負担が増し、子どもが不安定な愛情環境に置かれたり、見捨てられ感を抱きやすいことによると考えられます。
境界性パーソナリティ障害(3)
振り回されないためには、どうすればよいか
自分が何とか支えなければ、と思えば思うほど泥沼に入っていきます。
本人に責任を戻すことも大切です。
境界性パーソナリティ障害の人に接する場合に、起こりやすい問題は、熱心に支えようとすればするほど、どんどん要求水準が上がり、本人の気分や反応に、振り回されてしまうということです。
本人に気に入られようという思いがあると、余計泥沼に入りやすいと言えます。
本人の気分に巻き込まれずに、冷静なスタンスで、いつも同じ方向を示す道しるべとなる関わり方が大切です。
本人がやるべきことを肩代わりしたり、無理な犠牲を払ったりすることは、本人のためにもならず、後で行き詰まる原因となるので、ここまでが限界というラインを設定しましょう。
境界性パーソナリティ障害を改善するポイントは、善か悪かの二分法的な思考ではなく、その中間の受け止め方を増やしていくことです。
そのためには、悪いことに出会っても、良い点を見つけていく力を養っていくことが、根本的な改善につながります。
逆に、悪いことがあると非難したり、責めるというのは、良くない対応です。
自己愛性パーソナリティ障害(1)
なぜ、いつも偉そうなのか?
誇大な万能感や人を人とも思わぬ尊大さは、強い劣等感をはね除けようとして身につけたものなのです。
自己愛性パーソナリティ障害は、過剰な自信や誇大な願望、他人に対する尊大な態度や非共感性を特徴とするタイプです。
自分のことを特別だと考えていて、自分の利益のためなら、他人を利用し犠牲にすることにも、まったく心痛みません。
このタイプの人にとって、「世界は自分のために存在している」からです。
賞賛されることは、大好きですが、少しでも批判されると、激しい怒りを覚えます。
このタイプも、遺伝的要因が半分くらい関わっています。
バランスの悪い養育環境も多く見られます。
このタイプの人は、幼い頃に溺愛され、甘やかされた人に多いと言えます。
ただ、同時に、卑屈な思いや劣等感を味わう状況が併存しています。
たとえば、このタイプ音楽家のワグナーは、溺愛されて育ちましたが、私生児という出自を抱えていました。
偉大な成功という夢を膨らませることで、心のバランスを取らざるを得なかったという背景があるのです。
自己愛性パーソナリティ障害(2)
利用されて、捨てられないために
自己愛性パーソナリティ障害の人は、他人を利用することを当たり前だと思っています。
献身的に尽くしても、あまり感謝を覚えることもなく、逆に、些細なミスやうまくいかないことがあると、自分に原因があっても、周囲に責任転嫁して、攻撃してきます。
よかれと思って欠点を指摘したりすれば、激しい怒りを買い、集中攻撃を食らうことになります。
このタイプの人と上手に付き合うコツは、その人の偉大さを映し出す「鏡」となることです。
鏡は、自分の意志を見せたり、多くを語りませんが、その人を魅力的に映し出します。
それによって、このタイプの人は自分に自信と確信をもち、能力を発揮していくことができるのです。
鏡となって、自信を与えてくれた存在を、その人は、大切に扱うようになります。
また、鏡であるからこそ、その人が気づかないような支配力を及ぼすこともできるのです。
権力者が、侍医や占い師や側近の女性によって動かされるのは、そうした心の力動によるのです。
演技性パーソナリティ障害(1)
なぜ、芝居じみた行動をするのか?
演技性パーソナリティ障害は、注目や関心に対する飽くなき欲求と、身体的な自己顕示を特徴とするタイプで、過剰なパフォーマンスや外見的な魅力によって、人々の注意を惹き付けようとする。
ときには、ウソやでっち上げによって、注目を惹いたり、同情を得ようとする。
内面的なことよりも、外面的なことに関心があり、肉体的な魅力やセックスアピールを強調しようとする。
こうした傾向は、外面的な魅力を重要視する養育者の態度や価値観の影響も大きいとされる。
また、親の性的な側面を意識させられるような環境に育ったり、性的虐待を受けることも、一因となる。
つまり、外見的、性的魅力が過大な存在感をもち、自分のアイデンティティを乗っ取ってしまった状態を起こしているのである。
その根底には、周囲に息を呑ませるような外面的な魅力によってしか、自分の存在価値を認めてもらえないという内面の空虚感がある。
演技性パーソナリティ障害(2)
上っ面な魅力で終わらないために
このタイプの人にとって、注目される欲求は切実なものです。
それを押し込めるのではなく、うまく生かすことが大切です。
演技性パーソナリティ障害の注目や関心への欲求は、非常に切実で強いため、自分を貶めてしまうことや、社会規範に反するようなことをしてでも、注目を得ようとする。
それに対して、批判的な態度をとることは、このタイプの人にとっては、自分のすべてを否定されることに感じられ、余計に問題を悪化させやすい。
むしろ注目や関心への欲求を満たすと同時に、外見的なことだけでなく、内面的な魅力を評価する対応をすると、安定した信頼関係が作られやすい。
このタイプの人にとっては、多くの人に注目されることが重要なので、家庭に閉じこもるような生活は、うつや過食などの原因となる。
評価や注目を受けるような対外的な関わりを大切にしたい。
その一方で、外面的なことや刺激的なことばかりを追い求めるのではなく、内面的な知性や感性を磨くことも、本当の意味で豊かな人生につながる。
家事や育児といった身近なことを大切にしたい。
オノ・ヨーコの場合
ジョン・レノンの妻として、知られるオノ・ヨーコは、日本でも有名な財閥の出身でした。
しかし、子ども時代のヨーコは幸せではありませんでした。
母親は、気位が高く、ヨーコには、あまり関心がありませんでした。
彼女の有名になりたいという願望は、幼い日の関心不足と無関係ではなかったでしょう。
ヨーコが、ジョン・レノンに接近したのは、計算ずくのことだったと言われています。
彼女はロンドンに乗り込むと、マスコミの注目を浴びるべく、スキャンダラスな個展を開き、そこに、レノンが訪れるように仕組みます。
現れたレノンには見向きもせずに、ヨーコは、黒い神秘的な衣装をまとって、レノンの気持ちを捉えたのです。
そのとき、レノンには妻子があり、ヨーコにも夫や子どもがいました。
二人の結婚が幸福なものとなったのは、彼らの関心が外面的なことから、内面的な価値へと向かったからでもありました。
反社会性パーソナリティ障害(1)
なぜ、アウトローな生き方をするのか?
このタイプの人は、危険で、スリリングな状況が快感に感じられる。
平和な状況よりも、争いや冷酷さに、心が馴染むのだ。
反社会性パーソナリティ障害は、危険やルールを侵害することを好む傾向や他人に対する冷酷な搾取を特徴とするタイプである。
無鉄砲で、命知らずで、生命の危険や刑罰を受けることに対しても無頓着である。
豪胆で、勇敢だとも言えるが、感情が欠如しているとも言える。
このタイプも人は、平和な時代には、アウトローな存在と見なされるが、戦場にあっては、英雄的な戦士になることもある。
こうした特徴は、脳の生物学的な特性とも関係している。
このタイプの人では、恐怖を感じる扁桃体という領域の働きが低下している。
そのため、危険や痛みに対しても、不安や恐怖を感じにくい。
スリリングな状況を、むしろ快適だと感じる。
遺伝的な要因もあるが、幼い頃に虐待や非人間的な扱いを受けると、扁桃体などの発達に異常が生じると考えられている。
さらに、子どもの頃に、否定的な扱いを受け続けると、反抗がエスカレートし、社会を敵だとみなすようになっていく。
反社会性パーソナリティ障害(2)
被害者にならないために
口が巧い「虚言型」と、キレやすい「暴力型」に大きく分かれますが、相手が思い通りになるとみたら、容赦なく搾取しようとする点では同じです。
反社会性パーソナリティ障害の人は、危険を恐れず、口が巧かったり、行動が格好よかったりして、とても魅力的に見えることが多いと言えます。
その魅力に囚われ、一旦親密な関係を結んでしまうと、次第に本性を顕して、金づるやカモとして、相手を搾取するようになります。
それを拒もうとすると、今度は暴力の恐怖や、性的な支配でコントロールしようとします。
まず、見かけのかっこよさに騙されずに、相手がどういうタイプかを、見抜いて、深く関わらないことが第一です。
既に断ち切り難い関係にある場合は、一方的に尽くすのではなく、対等な関係を築くように、相手を導き、それに応じないようであれば、きっぱり関わりを解消した方がよいでしょう。
このタイプは、年齢と共に落ち着いてくることが知られており、半数程度は、三〇代後半になると、改善してきます。
ウソをつく虚言タイプと、暴力的なタイプに大きく分けられます。
薬物乱用が加わると、対処がより困難になります。
シゾイドパーソナリティ障害(1)
なぜ、一人が好きなのか?
孤独を好むのは、人といることに喜びを感じにくい遺伝的体質も関係しています。
シゾイドパーソナリティ障害は、対人関係を避け、孤独を好む傾向や、社会的な関心が乏しく、世間的な価値観から超然としているタイプです。
性的な関心も乏しく、生涯独身の人も多い。
名望や金銭に対する欲も、あまりなく、世捨て人や自然の中で生きる生き方に憧れます。
こうした特性は、遺伝的要因が、かなり関係しています。
近年見つかったDISC-1遺伝子の変異は、統合失調症やその近親者から多く見つかっていますが、この遺伝子変異がある人では、社会的無快感症が起きやすいのです。
つまり、人と接したりする社会的体験から喜びを感じにくいのです。
この遺伝子変異は、自閉症スペクトラムとも関連があります。
ただ、環境的要因の関与も認められ、ネグレクトによって愛着障害を生じた人では、他人に対する無関心といった、このタイプの特徴が認められます。
情愛に乏しい養育環境も、シゾイドパーソナリティ障害の一因となり得ると考えられます。
シゾイドパーソナリティ障害(2)
あなたの常識を押しつけない
極めつけの「草食系」であるこのタイプの人には、世間的な成功や幸福よりも、雑事に患わされない平穏な日々が大切なのです。
シゾイドパーソナリティ障害は、人と関わることに喜びよりも、負担や苦痛を感じてしまいやすいのです。
そうでない人は、孤立的に振る舞う生き方に、もどかしさや歯がゆさを感じ、もっとみんなと楽しめばいいのにと思ってしまいがちですが、それは、草食動物が、肉を見ても、ご馳走だとは思わないのと同じことです。
自分の「常識」で判断して、親密になろうとしたり、社交的なライフスタイルを押しつけても、それは、本人に苦痛に感じられるだけです。
神経過敏な傾向もあるために、雑事に患わされない、静謐で、単調な暮らしこそが、このタイプの人にとって理想の暮らしなのです。
土足で踏み込むような真似をすると、追い詰められたように感じて、いつもは穏やかな人から、激しい反応が返ってくることもあります。
煩悩に邪魔されないこのタイプの人は、コツコツと地道な仕事や研究をして、大切することもあります。
本人のペースを尊重することが大事だと言えます。
哲学者ウィトゲンシュタインの場合
ウィトゲンシュタインは、ウィーンの豊かな家に生まれた。
父親は、鉄鋼業で大成功し、巨万の冨を築いた。
しかし、息子たちはどれも繊細な気質で、七人兄弟のうち四人が自殺している。
ウィトゲンシュタインも、自殺の不安に怯えた。
学校にも満足に通わず、機械いじりに熱中した。
頭脳優秀だったにもかかわらず、正規の大学教育も受けず、まったく独学で、数学や哲学を学んだ。
ノルウェーの寒村の小屋に引きこもったこともあった。
彼が唯一心を許したのは、一人の青年だったが、その青年は戦死してしまう。
彼も兵士に志願して、最後は捕虜になった。
父親の死後、莫大な財産の相続を放棄して、小学校の教師になる。
だが、小学校でも父兄とうまくやれずに、生徒に暴行したかどで免職になった。
人生に絶望し、修道僧になることも考えたが、最後に選んだのは、大学の象牙の塔にこもって、哲学をすることであった。
失調型パーソナリティ障害(1)
なぜ、変人と見られるのか?
このタイプの特徴は、常識を超越していることです。
そうした感性や直感力は、しばしば偉大なアイデアや発見の原動力となります。
失調型パーソナリティ障害は、風変わりさや非現実的な知覚を特徴とするタイプで、世間の常識と無縁に、孤立的に行動する点は共通しています。
第六感や霊的な現象、宇宙との交信といったことに、特別な関心や体験をもっていたり、インスピレーションが豊かだったりします。
他の人には感じられない存在を感じたり、一過性に幻聴が聞こえたりすることもあります。
失調型パーソナリティ障害も、統合失調症と遺伝的背景は共通するものの、発症していない状態と考えられます。
霊感の強さを生かして、占い師や預言者、宗教家や芸術家として活躍する人もいます。
精神分析学者のC・G・ユングや文豪夏目漱石も、このタイプの人でした。
ユングの学位取得論文は、オカルトに関する研究でしたし、幻聴が聞こえたこともありました。
漱石も、ロンドン留学中に幻聴がひどくなり、被害妄想に悩まされました。
二人とも、その時期を乗り越えて、真に生産的な時期を迎えるのです。
失調型パーソナリティ障害(2)
豊かなアイデアをいかせ
このタイプの人は、自由を縛られると、窮屈に感じ力を発揮できない。
自由業やマイペースでできる仕事が向いている。
失調型パーソナリティ障害の人は、神経過敏な傾向のために、生きづらさを抱えますが、常識に囚われない、日常的な発想を超えた、新しいアイデアを生み出します。
過敏さを守りながら、豊富なインスピレーションを、現実的に生かすだけのベースがあれば、人に真似のできない成功も手に入れることができます。
過敏さを守る方法の一つは、人付き合いを減らすことです。
特に、若い過敏な時期は、引きこもった生活をして凌のも、一つの方法です。
また、ユングや漱石が選んだように、大きな組織の中で働くのではなく、マイペースで仕事のできる自由業の道を選択するのも良いでしょう。
もう一つ大事なのは、アイデアがただ風変わりな思いつきで終わらないだけの、ベースを培うと言うことです。
そのためには、気長に地道な訓練を積んで、知識や技術を磨いていくことが大事です。
また、現実的なアドバイスをしてくれるパートナーや友人をもつことも、成功の鍵を握ります。
C・G・ユングの場合
スイスの精神分析学者C・G・ユングは、インスピレーション豊かなこのタイプの人物であった。
ユングは錬金術やオカルト、秘教や魔術に興味を持ち、曼荼羅や象徴の研究を行った。
非科学的とされたものへの関心が、集合的無意識や原型という独自の理論を生み出すことにつながった。
ユングは、無意識は、個人を超えて、もっと大きな集団や種全体につながっていると考えた。
したがって、無意識との交流が失われと、精神が病気になってしまう。
ユング自身、ある時期、幻聴を聴き、「夜の航海」と呼んだ無意識との対決に、沈潜したこともあった。
その時期を乗り越えることで、創造的な時期を迎えるのである。
ユングの「共時性」という概念を唱え、偶然の一致が、しばしば重要な意味をもつと主張した。
しかし、見方を変えれば、それは、このタイプに見られやすい「症状」の所産だったとも言えるだろう。
妄想性パーソナリティ障害(1)
なぜ、人が信じられないのか?
このタイプの極度の猜疑心や秘密主義は、他人は、スキさえあれば、自分を責めてくるものという信念の結果なのです。
妄想性パーソナリティ障害は、親しい人さえも信じることができない、強い猜疑心を特徴とするタイプです。
傷つきやすく、また傷つけられたことを執念深く覚えていて、恨みの念を持ち続けます。
配偶者や恋人の不貞を疑い、尾行したり、ケータイや下着をチェックして、行動を逐一監視しようとします。
他人に対して警戒心が強く、自分のプライバシーを知られることを極度に厭がります。
ときには、妄想的な思い込みに囚われることもあります。遺伝的要因とともに、いつも批判やアラ探しばかりされるような環境で育つと、助長されるようです。
何か知られると、それでまた責められるという状況が、他人は、いつもアラ探しをして責めてくるものだという、このタイプ特有の間違った信念を生み出し、秘密主義や他人に対する極度な警戒心を強めてしまうのです。
独裁者や大量殺人者にも多く見られます。薬物やアルコールの影響で、元々の傾向が強まる場合もあります。
妄想性パーソナリティ障害(2)
逆恨みされないために
このタイプの人は、親密な距離に踏み込んだ瞬間に、猜疑心のスイッチが入ってしまいます。
親切が、愛情と誤解されることもあります。
妄想性パーソナリティ障害も、付き合い方を間違うと、大やけどをするタイプだと言えます。
最初の印象は、やや堅苦しく、ねちっこいところはあるものの、真面目で礼儀正しいと感じられ、何気なく関わりを持ってしまうことも多いのです。
最初に気づくポイントは、秘密主義で、内面やプライバシーを気軽に語ろうとしないことです。
思い込みの激しさや、疑り深いところが見えてきたときには、危険ゾーンに入っていると思ってください。
親密な関係になる場合は、支配され、縛り付けられることをある程度覚悟しなければなりません。
体の内側まで、全部見せますというくらいの覚悟が必要です。
それが無理であれば、親密な関係にならないように、安全な距離をとり続けることです。
親切や親しげな振る舞いも、相手に誤解を与えます。
あなたは、いつのまにか、その人の中では、「恋人」同然の存在になっているかもしれません。
あくまで中立的で、感情抜きの関係に徹することです。
「政商」小佐野賢治の場合
田中角栄と昵懇の間柄で、「政商」と言われた小佐野賢治は、山梨の貧農の家に生まれた。
「戸のない家」での極貧の暮らしから身を起こして、戦争のどさくさで財をなすと、乗っ取りや賄賂を駆使して、巨万の富を築いた。
猜疑心が強く、会社が大きくなってからも、印鑑は人に絶対触らせなかった。
役員の退職金も一度には払わず、分割で払った。
会社を離れても、秘密を漏らさないように、口止めするためだった。
「俺は、人間なんか信じられねえ。信じられるのは金だけだ」とよく口にしていたという。
人当たりは良かったが、腹の中では、冷酷なまでに相手の心を読んでいた。
ロッキード疑獄で証人喚問され、「記憶にございません」を連発し、偽証の罪で有罪判決を受けた。
嫡出子がいなかったこともあって、晩年は孤独であった。
唯一信じられたのは、極貧生活を共にした二人の弟たちだった。
回避性パーソナリティ障害(1)
なぜ、失敗を恐れるのか?
このタイプは、失敗することを恐れて、責任や親密な関係を避けしてまいます。
自分は、どうせ失敗するという思い込みがあるのです。
回避性パーソナリティ障害は、責任やプレッシャーがかかる状況を回避することを特徴とするタイプです。
失敗したり、傷ついたりする可能性のあることは、すべて避けようとします。
就職や昇進、結婚や子どもをもつことも、責任が増えるため、二の足を踏みます。
好きな人がいても、好意を打ち明けられませんし、相手からアプローチしてきても、いつか嫌われるのではとの恐れから、断ってしまうことも多いのです。
また、肉体をさらけ出したりすることも苦手で、セックスなどにも、喜びよりも、不安が強く、積極的になれません。
どうせ失敗する、嫌われるというネガティブな思い込みが強いのです。
不安の強い遺伝的傾向とともに、親からいつも、自信を奪われるような言い方をされて育った人に多く、典型的には、「あまり褒められたことがない」と語る人によく出会います。
失敗すると、何か言われるという思いから、いつのまにかチャレンジを避けるような行動様式を身につけてしまったのです。
回避性パーソナリティ障害(2)
あなたの人生はあなたのもの
このタイプの人、チャレンジする前から、どうせダメだと諦めてしまいます。
可能性を狭めているのは、この人自身の否定的な思い込みなのです。
回避性パーソナリティ障害の人は、せっかく長所や能力をもっていても、それが生かされません。
チャレンジを避けるために、実力よりもはるかに低いレベルの人生になってしまうのです。
それは、とてももったいないことです。
一度きりの人生です。
失敗を恐れていては、何もしない間に、人生は終わってしまいます。
結果を恐れずに、思い切って決断し、行動することが、このタイプの人に何より大事です。
そのために、小さなことから成功体験を積み、自信を回復する必要があります。
得意なこと、好きなことから、やってみてください。
そこから、きっと新しいチャンスが生まれます。
周囲の人は、決して強制しないでください。
強制されると、このタイプの人は、大きなプレッシャーを感じて、余計に逃げ出したくなってしまうのです。
それよりも、些細なことを、どんどん褒めてください。
勇気を出して、チャレンジしたときには、失敗しても、大いに褒めてください。
否定的な言葉は禁物です。
アガサ・クリスティの場合
「ミステリーの女王」アガサ・クリスティは、子どもの頃から読書と空想好きの内気な少女でした。
数学やピアノも得意でしたが、本番に弱く、まるで力が発揮できません。
アガサも、年頃になると、求婚を受けます。
相手は、どれも立派な紳士で、アガサも最初は気に入るのですが、結局、最後には断ってしまうのです。
そんなことが、三回ばかり繰り返された末、アガサは、ハンサムで魅力的な男性から求婚されます。
アガサは煮え切らない態度をとりますが、戦争が始まり、彼が戦場に行くことになって、ようやく結婚に踏み切るのです。
ところが、戦争が終わって、一緒に暮らすようになると、遊び人の夫はろくに仕事をしようとしません。
しかし、夫と衝突したくないアガサは、生活のためにミステリーを書くようになります。それが大成功をもたらしたのです。
依存性パーソナリティ障害(1)
なぜ、一人で生きていけないのか?
「自分は無力なので、一人では何もできない」というこのタイプの思い込みは、幼い頃から、親との関係で刷り込まれたものなのです。
依存性パーソナリティ障害は、自己決定の困難さや心理的な支えを常に必要とすることを特徴とするタイプで、誰かに頼らないと生きていけないという思い込みに囚われています。
そのため、常に他人の顔色を伺い、機嫌を損ねないようにサービスしたり、その価値もない相手に、献身したりします。「いや」と断るのが苦手で、押しの強い相手には、つい言いなりになってしまいます。
そのため、悪徳商法や寄生虫のような人物の餌食になってしまいやすいのです。
売春や犯罪行為をして、多額の金品を貢ぐこともあります。
このタイプは、養育環境との関係が大きく、いつも横暴な親に支配され、ビクビクしながら育った人が典型的です。
病弱な親や不安定な親の面倒を子どもの頃から見ていたというのも、よく見られるパターンです。
親と子どもの関係が逆転し、子どもが保護者の役割を押しつけられることで、自分よりも、相手を優先するという行動様式を身につけてしまったのです。
依存性パーソナリティ障害(2)
孤独に強くなれ
「他人に嫌われたら生きていけない」という思い込みは、幼い頃から親の顔色をうかがって生きてき名残です。
そこから脱しましょう。
依存性パーソナリティ障害の人は、決めるのが苦手で、何でも最終的な決定は、人に任せようとします。
しかし、それでは、いつがきても、自己決断力をつけて、心理的自立をすることはできません。
たとえ、ベストの決定でなくても、自分で決定することを繰り返す中で、決断力も養われるのです。
些細なことも、「あなた、決めて」ではなく、自分で決めるように、本人も周囲も心がけることが大事です。
また、相手の気持ちに合わせるのではなく、自分の気持ちを言うことを大切にしてください。
周囲の人も、できるだけ本人の気持ちを引き出すようにしてください。
人と違う意見を言ったときには、特に評価するようにしてください。
自分の気持ちを言えるようになることで、人生が良い方向に変わっていった人を、大勢見てきました。
それは、些細なことのようで、決定的なことなのです。
いい人を止めることで、狭かった人生が、大きく開けてくるでしょう。
画家ユトリロの場合
ユトリロの母親シュザンヌ・ド・ヴァラドンは、モデルから画家になった個性の強い女性で、その母親に支配されて育ったユトリロは、自分の意思表示ができない、無口で、人付き合いの苦手な人間になりました。
いつも愛情不足の中に放っておかれたため、十代からアルコール依存症になっていました。
その治療のためにと始めたのが、絵を描くことでした。そして、ユトリロは、自分を表現できる手段を得たのです。
誰にも振り返られなかったユトリロですが、画家として売れ出すと、急に結婚相手の女性が現れます。
十二歳も年上の大柄な女性ボーウェルです。
ユトリロは、この妻に支配され、「貨幣製造器」として搾取され続けます。
ユトリロ自身にとっては、この頑丈な自我をもつ妻にしがみついていることで、安定を得ていたのかもしれません。
強迫性パーソナリティ障害(1)
なぜ、正しいことにこだわるのか?
秩序や道徳というものを大切にし、曲がったことが大嫌いなこのタイプは、生真面目な親に厳しく躾けられた人に多いと言えます。
強迫性パーソナリティ障害は、秩序や一定の流儀に、強く囚われることを特徴とするタイプで、完全主義や融通の利かない傾向もみられます。
自分の義務に忠実で、責任感が強く、曲がったことや不道徳なことは、受け入れられません。
一旦決められた規則や計画を実行することを重要視し、いい加減なことは許せません。
そのため、自分を犠牲にしてでも、責任や義務を果たそうとし、無理をしがちです。
うつや心身症にやりやすいタイプです。
現状を維持しようとする傾向が強く、物を捨てるのが苦手で、同じことを繰り返すことに安心を覚えます。
哲学者カントは、ぴったり同じ時刻に、同じ道を通って散歩をしたことで有名ですが、謹厳実直で、秩序愛に満ちた道徳哲学を打ち立てたカントも、このタイプの人物だと推定されます。
このタイプは、固執性の強い遺伝的傾向と関係し、それが、厳しい躾や折り目正しい養育者の薫陶によって、より強化されたものと考えられます。
強迫性パーソナリティ障害(2)
ほどよさを心得る
真面目で、努力家で、責任感の強いこのタイプは、他人にも同じルールを押しつけて、煙たがられないように気をつけましょう。
強迫性パーソナリティ障害の人は、自分にも他人にも厳しく、妥協しないという傾向が見られます。
そのため、自分にも周囲にも無理を強いてしまうのです。
自分が「うつ」になるだけでなく、周囲を知らすしらず病気にしてしまうこともあります。
職場の同僚や部下もそうですし、配偶者や子どもが、そうなってしまう場合もあります。
本人は気づかないのですが、いつのまにか自分の流儀を絶対的なものとして、周囲に強い、その結果、周囲は窒息状態に陥ってしまうのです。
自分にとって最善のことであっても、人にとっては、最善ではないということ、そして、無理強いされた瞬間に、最悪のものになってしまうと言うことを、理解する必要があります。
誰も、自分の息で呼吸したいのです。
他人の息を呼吸したい人などいないのです。
逆に、このタイプの人に接する上では、この人のルールを受け入れるか、袂を分かつしかありません。
最善の策は、互いの領分をはっきりさせて、棲み分けをすることです。
色々なタイプが合併することもある
パーソナリティ障害は典型的な十のタイプに分類されますが、現実には、さまざまな割合で、いつくかの傾向が混じり合っているのがふつうです。
パーソナリティ障害は、十タイプに分けられますが、それは、連なる山脈の峯のようなもので、裾野の部分では重なり合っているのです。
一つのタイプだけに当てはまる場合もありますが、複数のタイプに当てはまることも多いのです。いろいろな要素があって、ある意味当然なのです。
また、境界性パーソナリティ障害は、すべてのパーソナリティ障害の中でも、特別な地位を占めています。
というのも、あらゆるパーソナリティ障害は、何かのきっかけで、見捨てられ不安や自己否定感が強まると、境界性パーソナリティ障害の様相を呈するのです。
つまり、境界性パーソナリティ障害は、パーソナリティ障害の中でも、急性増悪を来した状態だと言えるのです。
この場合、境界性パーソナリティ障害の治療を行う中で、元々あったパーソナリティ障害の問題もいっしょに出てくるわけですが、それを機に、どちらも改善するきっかけになることがあります。
職場のPDプロブレム
人間関係が濃くなり易い職場では、今、パーソナリティ障害によるトラブル、PDプロブレムが増えています。
職場で、パーソナリティ障害が引き起こすPDプロブレムが、大きな問題となっています。
他のところでは、関わりを避けられても、職場ではそうはいかないからです。
それがきっかけで、うつ病などの精神疾患にかかったり、退職や自殺にまで追い込まれるケースも跡を絶ちません。
もっとも多いのは、自己愛性パーソナリティ障害の人が、上司になった場合です。
自己愛性の場合、部下を犠牲にしてでも、業績を上げることが優先されます。
自分の考えしか受け付けず、批判は許されません。
しかし、失敗すれば、部下の努力不足やミスのせいにされ、責められます。
怒鳴られたり、侮辱されたりすることもあります。
強い発言力を持っていることも多く、誰にも鈴をつけられないのです。
不当な人権侵害が行われたときは、記録を残すことが重要です。
上に知られることや表沙汰になることには、敏感ですので、実情を、さらに上の管理職や外部の機関に相談することが抑止力になります。
恋愛・結婚のPDプロブレム
職場と並んで人間関係が濃厚になる場面は、恋愛と家庭です。
ストーカーやDV、虐待の問題の背後には、パーソナリティ障害が見え隠れします。
パーソナリティ障害によるトラブルが急増している、もう一つの場面は、恋愛や結婚においてです。
関係が濃密になる恋愛や結婚も、PDプロブレムが発生しやすいのです。
相手にひそんでいる問題に気づかずに、不用意に付き合い始めたばっかりに、シャブ漬けにされ、売春をさせられたり、ストーカー行為を受けた挙げ句、殺されるというケースも現実に数多く起きています。
恋愛において、特に危険なタイプは、反社会性、妄想性ですが、自己愛性や境界性でも、DVやストーカー行為が、しばしばみられます。
問題が出現したときに、それを黙認してしまうと、エスカレートしやすいので、初期の段階で、きっぱりとした対応をとることです。
十年以上も結婚生活を続けて、子どももできてから別れるのは、お互いつらいことです。
早めの対応が大事なのです。
回避性やシゾイドでは、結婚寸前までいって、なかなかゴールインしないということがあり、待ちぼうけを食らわされることもあります。
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