パーソナリティ障害は治る?
パーソナリティ障害は、今日では改善が可能な状態だと考えられています。
年齢や社会的体験によっても、回復は左右されます。
パーソナリティ障害は、かつて、改善が困難と考えられた時期もあった。
だが、今日、治療的な取り組みが活発となる中で、改善が可能な状態と考えられている。
もちろん、パーソナリティ障害は、ある程度の持続性をもった様式であるため、一朝一夕で変化するものではないが、根気よい取り組みによって、改善や修正ができる。
また、加齢による変化や成長も重要である。
境界性パーソナリティ障害や反社会性パーソナリティ障害の多くは、三十代後半くらいから落ち着いてくることが多い。
性ホルモンが活発な時期には、衝動性や反応性が強まりやすいが、その時期を過ぎると、情動もコントロールされやすくなる。
シゾイドや妄想性、失調型のように、生物学的な気質の要素が強いものでも、年齢とともに、性格が「丸くなる」ということは、しばしば経験する。
ただし、不遇な環境や孤独な環境に置かれると、逆に、パーソナリティの偏りが強まる場合もある。
診察を受ける時に注意すべきこと
どの病院に行けば、良くなるというものではありません。
関心と意欲と技量をもった治療者に出会うことが何よりも大切です。
パーソナリティ障害を専門にする医師の数は、非常に限られています。
残念ながら、パーソナリティ障害に対して、偏見をもっている医師もいます。
パーソナリティ障害と聞いただけで、厄介がられてしまう場合もあります。
逆に、意欲はあっても、興味本位で、力量が伴わない場合は、弄くり回されて、手に余るようになると切り捨てられるということになりかねません。
ある程度の経験と力量をもった医師にかかることが、改善のためには不可欠です。
保健所(保健センター)の窓口で、思春期の治療経験が豊富な医師や認知行動療法に通じた医師を教えてもらうとよいでしょう。
また、薬物乱用や摂食障害などに対応できる医師では、パーソナリティ障害の臨床経験も豊富なので、そうした医師を探すのも一法です。
医師自身のパーソナリティが不安定だったり、脆弱だったりする場合は、迷走しやすいので、共感的であると同時に、しっかりした自我をもった医師に出会うことです。
薬物療法は有効か
薬物療法は、過敏性を緩和したり、気分の安定化や不安の改善によって、パーソナリティ障害の生きづらさを和らげるのに有効です。
生活の支障が大きいケースほど、薬物療法は有効性が高い。
パーソナリティ障害に伴いやすい困難として、過敏性と感情不安定や衝動性がある。
また、抑うつや不安、対人緊張の強さも、生活に支障を生みやすい。これらは、いずれも、薬物療法が有効である。
たとえば、境界性パーソナリティ障害では、少量の非定型精神病薬により、過敏性を緩和し、気分安定化薬により、感情の不安定さ衝動性の改善をはかることで、本人も周囲も、生活が容易になる。
認知行動療法などと併用することで、さらに効果が生まれやすくなる。
ただし、薬物に依存しやすいケーも多いので、依存性のある抗不安薬などの使用には、慎重でなければならない。
その意味でも、依存性のない非定型精神病薬や気分安定化薬を中心とした処方が安全である。
また、一度に長い日数の処方を行うことは、自殺予防の観点からも避けるべきである。
認知行動療法とは?
認知行動療法では、不適切な「自動思考」を見つけ出し、もっと適応に役立つ思考パターンを身につけなおす訓練をする。
認知療法と行動療法を一体化した治療法で、その人の認知の偏りを見つけ出し、修正を図ると同時に、より適切な対応を実践的にトレーニングします。
まず、日々の行動でトラブルや困難に出くわす度に、それを記録します。
①きっかけとなる出来事と②それに対する反応を書いた上で、①の出来事をどう受け止めたために、②の反応が出てきたのかを考えます。
そこから、「自動思考」と呼ばれる、偏った認知パターンがわかってきます。
その認知パターンが、いかに現実性を欠いた思い込みであるかをわからせたり、もっと良い受け止め方を考え、それ徹底して修得していきます。
たとえば、百かゼロかで物事を受け止めてしまう「二分法的思考」を認めたとすれば、「ほどよさが一番」という認知へと修正していくのである。
それを、さらに、ある場面を思い浮かべて実践したり、ロールプレイで実際にやってみたりして、より適応的な行動パターンを身につけていきます。
弁証法的行動療法とは?
境界性パーソナリティ障害の根本障害を、弁証法的な統合の失敗と考え、「すべて良い」でも、「すべて悪い」でもない、中間の認知を育てる。
マーシャ・リネハンが、自殺企図を伴う境界性パーソナリティ障害の治療のために独自に開発した認知行動療法の一つです。
弁証法的行動療法(DBT)は、その名前にも示されるように、境界性パーソナリティ障害の根本的な障害を、弁証法的な統合の失敗と考えます。
弁証法とは、「Aである」と「Aでない」という相反する命題が、より高い次元で、一つに統合することです。
境界性パーソナリティ障害では、たとえば、「愛している」と「憎んでいる」という相反する見方は、一つに統合されないため、どちらかの極端な反応をしやすくなると考えるのです。
DBTでは、もう一方の見方に気づかせ、バランスの良い認知や反応を身につけさせていきます。
DBTの柱となる認証戦略では、どんなに悪い状況でも、良い点があることに気づかせようとします。
また、もう一つの柱である問題解決戦略では、葛藤やストレスに対する対処を実践的に学んでいきます。
対人関係療法(対人間再構成療法)とは?
人は、かつて子どもだったときの親との関係を、他人との間に再現してしまう。
その人を縛る親への「忠誠」から、解放することを目指します。
心理療法家のローナ・ベンジャミンによって確立された心理療法で、認知療法と精神分析の両方の流れを汲んでいます。
ベンジャミンによれば、パーソナリティ障害の人の偏った対人パターンは、その人が子どもだったときに、その人にとって重要な人物(親など)との関係を再現しているものなのです。
子どもの頃には、それが適応に寄与したわけですが、大人になった今は、生活の妨げとなっているものの、それを止めることができないのです。
この対人パターンの再現は、三つのコピープロセスによって行われます。
一つは、過去の重要な人物のようになることによって、一つは、その人物が、今もその場にいて監督しているように振る舞うことによって、一つは、その人物が自分を扱ったように、自分自身を扱うことによって。
対人関係療法では、不適応パターンが、愛する人との関係に由来することを自覚し、その呪縛から自由になることによって、人生の可能性を広げようとします。
克服するために大切なこと
自分では当たり前と思っている「囚われ」が、あなたを縛っています。
まず、そのことに気づくことです。
パーソナリティ障害の人を苦しめているのは、囚われです。
いつの間にか、自分で自分を縛っているのです。
「こうするしかない」、「こうでなければならない」、「意地でもこうしてやる」と、囚われの形はさまざまですが、柔軟に目先が変えられないという点では同じです。
井戸の中から空を見上げて、それが自分の世界だと思い込んでいるのです。
考え方や感じ方は、もっと自由で多様なものです。
あなたが、そう感じるからと言って、人も同じように感じるとは限りません。
自分が気にしていても、他人はあなたの気にしていることに、まったく無関心ということも多いのです。
自分の囚われを自覚し、その縛りから自由になるとき、あなたはもっと大きな可能性を手に入れることができます。
そのために、必要なのは、自分を縛っている囚われに気づくことです。
なぜ、自分は、人の顔色ばかりうかがうのか。
なぜ自分は、人より優れていないと気がすまないのか。
なぜ、完璧なものをもとめてしまのうか等々。
パーソナリティ障害をパーソナリティスタイルに変える
ほどよい偏りは、むしろ「個性」として大切なもの。
それが苦しみになるのは、あまりにも「極端」だったり、「頑な」になってしまうからです。
人はそれぞれ何らかの偏りを持っています。
それは、硬直化したり、極端だったりしない限りは、「個性」なのです。
偏りがあっても、相手や状況に応じて、柔軟に形を変え、バランスをとることができれば、かえって、それは魅力となるのです。
パーソナリティ障害が克服されていくということは、没個性的な偏りのない人間になるということではなく、その人に備わった特性が生かされた「パーソナリティスタイル」を手に入れると言うことなのです。
そのためには、性格を大改造するというよりも、ほんの少しだけ、極端にならないように、また柔軟になれるように、受け止め方や反応を変えていけばいいのです。
持てる特性を生かすと同時に、それに溺れないようにすることで、余計魅力は増します。
心が頑なになっていないか、極端になっていないか、注意してください。
もしそんな自分に気づいたら、体の力を抜き、反対側を見て、大きく深呼吸してください。
自分の囚われから、少し自由になるはずです。
コメント